「お給料がちゃんと払われない」「よく分からない天引きをされた」——そんなモヤモヤを、一人で抱えていませんか。勤務先に直接言うのは怖いし、誰に相談していいか分からない。その気持ち、とても自然なものです。
実は、そういうときに味方になってくれる公的な窓口があります。その一つが「労働基準監督署(労基署)」です。むずかしそうに聞こえるけれど、流れを知っておけば落ち着いて動けます。一緒に確認していきましょう。
労基署はどんなときに相談できる?
労基署は、労働基準法や最低賃金法などのルールがちゃんと守られているかを見てくれる国の機関です。雇われて働いている人なら、業種にかかわらず相談できます。パート・派遣・契約・正社員など、雇用形態も問いません。たとえば、こんなケースです。
- 働いた分のお給料が支払われない(未払い・遅配)
- 同意していない「罰金」「ペナルティ」が勝手に天引きされた
- 最低賃金を下回る金額しか支払われない
- 残業代がまったく出ない
なお、自分が「雇用」なのか「業務委託」なのかで扱いが変わることもあります。判断がむずかしいときも、まずは相談してみて大丈夫です。
「自分の働き方でも相談できるの?」と思っているあなたへ
「うちは特殊な働き方だから、普通の法律は関係ないと言われた」——そんな声をよく耳にします。でも、それは間違いのことが多いです。
実態として「決まった時間に出勤し、指示に従って働いている」なら、業種にかかわらず法律は守られるべきものです。「業務委託だから」「個人事業主扱いだから」という説明をされても、実際の働き方が雇われている実態に近いと判断されるケースもあります。自分の働き方がどちらにあたるかが分からなくても、まず相談してみることに意味があります。
「こんな働き方の話でも聞いてもらえますか?」と最初に一言添えてみてください。相談員は判断するためにあなたの話を聞いてくれます。
よくある「でも…」に答えます
「勤務先に借りがある」「雇い主に悪いことをしたくない」「波風を立てたくない」——そういう気持ちも分かります。でも、あなたが正当に働いた分のお金を受け取ることは、悪いことではありません。相談することで、すぐに大ごとになるわけでもありません。相談は、あなたの状況を整理するための第一歩です。
相談前にそろえておきたいもの
手ぶらでも相談はできますが、記録があると話が早く進みます。できる範囲で集めておきましょう。
- 契約書・雇用条件が分かる書面(あれば)
- 勤務先とのLINEやメールのやり取りのスクショ
- 出勤した日や時間が分かるメモ・シフト表
- 給与明細、振込履歴
- 天引きされた金額や名目のメモ
証拠は「あとから集める」のがとても大変です。今おかしいと感じているなら、消される前にスクショや写真で残しておくのがいちばんの自衛になります。
記録を残すコツ
記録は「完璧でなくていい」です。思い出せる範囲でメモするだけでも違います。
- 出勤記録:日付・開始時刻・終了時刻・働いた大まかな時間をメモ帳やスマホのメモに書き残す。
- 給与関連:振込明細は通帳やアプリのスクショで保存。現金手渡しの場合は受け取った金額と日付をその場でメモ。
- 会話記録:「〇月〇日、上司から電話で『今月は払えない』と言われた」のように、いつ・誰が・何を言ったかを簡単に書いておく。
- 天引きの内訳:「制服代」「遅刻分」など名目を書き留める。金額が分かればなお良い。
LINEのトーク履歴はスクリーンショットで保存するだけでなく、「ノート」や「アルバム」にも入れておくと消えにくくなります。
証拠がなくてもあきらめないで
「スクショを撮っていなかった」「契約書をもらっていない」という方は多いです。証拠が少なくても、あなたの話を聞いてもらうことはできます。相談員は「こういう記録があれば調べやすい」と教えてくれますし、勤務先への調査の中で書類が集まることもあります。「証拠がないから無駄」と思い込まないでください。
相談から解決までの流れ
おおまかには、次のように進みます。
- 勤務先の地域を管轄する労基署に、電話か窓口で連絡する
- 状況を説明し、相談員と一緒に何が問題かを整理する
- 必要に応じて「申告」を行い、労基署が勤務先に調査・指導を行う
- 是正されれば、未払い分の支払いなどにつながることがある
相談自体は無料で、いきなり勤務先に伝わるわけではありません。匿名で話を聞いてもらうことも可能です。ただ、個別の事情によって対応は変わるので、不安な点はその場で率直に聞いてみてくださいね。
ステップごとにもう少し詳しく
ステップ1:まず電話か窓口に連絡する
「労基署 〇〇市」などで検索すると、管轄の署の電話番号が分かります。電話でいきなり事情を詳しく話す必要はありません。「給料のことで相談したいのですが」と一言伝えれば、担当者が話を整理してくれます。「まず窓口に来てください」と言われたら、その指示に従えば大丈夫です。
ステップ2:状況を整理してもらう
担当者に状況を説明します。あらかじめ「いつ、どれくらいの金額が支払われていないか」を大まかに整理しておくと話しやすいです。メモを見ながら話しても全然かまいません。担当者は責めたり急かしたりはしません。落ち着いて話してみてください。
ステップ3:申告するかどうか決める
「申告」とは、正式に勤務先の問題を労基署に訴えることです。申告すると、労基署が勤務先を調査・指導することがあります。申告するかどうかは相談の後で決めることができます。「まだ申告まではしたくない」「話を聞いてもらうだけでいい」という段階でも、相談の場所で聞いてもらえます。
ステップ4:その後の対応を待つ
申告した場合、労基署は勤務先を呼んで事情を聴いたり、書類を提出させたりする調査を行います。解決まで時間がかかることもありますし、状況によっては労基署だけでは解決しないケースもあります。そのような場合は弁護士など別の相談先につないでもらえることもあります。
「申告したら報復されるかも」と怖い方へ
申告したことを理由に解雇・嫌がらせをすることは、法律で禁じられています。ただ、実際には怖い思いをする可能性が全くないとは言えません。相談の際に「報復が心配」と伝えておくと、担当者が対応策について一緒に考えてくれます。一人で抱え込まず、状況を話してみてください。
困ったときの相談先
一人で抱え込まないことが、自分を守る第一歩です。状況に合わせて、こんな窓口があります。
- 労働基準監督署:給料の未払い、不当な天引き、最低賃金などの労働トラブル。勤務先の地域を管轄する署が窓口です。
- 法テラス(日本司法支援センター):法律のことを無料で相談できる窓口。収入などの条件に応じて、無料の法律相談や弁護士費用の立替制度を案内してもらえます。
- 警察相談専用ダイヤル #9110:事件にするか迷うけれど不安、つきまといや脅しが心配なときに。緊急時は110番を。
- 各自治体の女性相談窓口:お住まいの市区町村や都道府県が設けている相談窓口。生活や安全のことも含めて、幅広く話を聞いてもらえます。
「これくらいで相談していいのかな」とためらう必要はありません。あなたの不安は、相談していい不安です。
どの窓口に行けばいいか迷ったら
「給料・天引き・残業代」のことなら、まず労基署。 「契約の内容・損害賠償・法律的な判断が必要」なことなら、法テラス。 「脅し・つきまとい・恐怖を感じている」なら、#9110 または 110番。 「生活のこと全般・心のこと・住む場所のこと」なら、自治体の女性相談窓口。
一つの窓口が全部解決するわけではありませんが、「まずここに話す」と決めるだけで、次の一手が見えてきます。どこに行っても「こっちの窓口の方が合っている」と別の場所を紹介してもらえることもあります。たらい回しになっても疲弊しないよう、最初から複数の窓口があることを知っておくと安心です。
よくある質問
Q:勤務先が「うちは業務委託だから労基署は関係ない」と言っています。本当ですか?
A:必ずしもそうとは限りません。契約書に「業務委託」と書いてあっても、実際に出勤時間・ノルマ・服装などを細かく指示されているなら、実態は「雇われている」と判断されることがあります。「業務委託だから無関係」という説明をそのまま信じる必要はありません。まずは相談してみてください。
Q:今の勤務先を辞めた後でも相談できますか?
A:はい、退職後でも相談できます。働いていた期間のことを後から申告することも可能です。ただし、時間が経つほど記録が集めにくくなることがあるため、できるだけ早めに相談すると安心です。「もう辞めたから遅かった」とあきらめないでください。
Q:相談したことが、勤務先や同僚に知られてしまいますか?
A:最初の「相談」の段階では、あなたの名前や内容が勤務先に伝わることはありません。「申告」の段階に進むと、調査の過程で勤務先側に一定の情報が伝わる可能性はあります。どこまで進めるかは自分のペースで決められますし、不安なことは担当者に率直に聞いてみてください。
あなたが働いた分のお金は、あなたのものです。怖くても、証拠が少なくても、「今の働き方だから仕方ない」なんてことはありません。一人で悩む必要はなく、あなたの話を聞いてくれる場所は必ずあります。まず一歩、相談してみてください。