勤務先から「ここにサインしてね」と紙を渡されたとき、内容をよく読まないまま名前を書いてしまった経験はありませんか。その場の空気で断りづらかったり、聞き返すのが恥ずかしかったり。でも、契約書や誓約書はあなたを守る大事な紙でもあり、ときに不利な条件を押しつけてくる紙にもなります。サインする前に少し立ち止まって、一緒に確認していきましょう。
どんな働き方であっても、あなたには「契約内容をきちんと知ったうえで同意する」権利があります。雇用形態を理由に、その権利が小さくなることはありません。
サインする前にチェックしたいこと
あわてて書かなくて大丈夫です。次のポイントを落ち着いて確認してみてください。
- 時給・日給・歩合率など、お金の計算方法が具体的に書かれているか
- 給料日と支払い方法(手渡し・振込)が明記されているか
- 罰金・ペナルティ・違約金の項目があるか、その金額はいくらか
- 制服代・備品代などの天引きが何にいくらかかるか
- 辞めるときのルール(何日前に言えばよいか)が書かれているか
- 書かれた内容を確認する時間をもらえるか、コピーをもらえるか
紙を渡されたら、まず全体をざっと眺めるだけでいいです。「あとで読み直したいのでコピーをもらえますか」と一言伝えるだけで、誠実な勤務先は快く応じてくれます。断られた場合、それ自体がひとつのサインです。「今日すぐにサインしてほしい」と急かされても、「家に帰って確認してからにしたい」と伝えて構いません。
「実際の給料はもっと良いよ」「罰金なんて実際は取ってないから」と言われても、書面に書かれていることが契約の内容になります。書かれていない約束は、書いてもらうようお願いするか、メッセージで確認の文を送って相手に返信してもらい、記録に残しましょう。
こんな条件には特に注意
法律の一般的な原則として、働いた分の賃金は支払われるべきものです。最低賃金法は、地域ごとに定められた最低賃金を下回る給料を認めていません。次のような条件が書かれていたら、いったん持ち帰って考えるサインです。
- 遅刻や欠勤に対して、給料を大きく超える高額な罰金がある
- 「辞めるなら違約金◯◯万円」といった退職を縛る金額の定め
- 損害賠償の金額があらかじめ決められている(賠償予定の禁止に触れる可能性)
- サインしないと働かせない、と急がせてくる
一度サインしても、法律に反する条件(不当な罰金や賠償の予定など)は、そのまま有効になるとは限りません。「もう書いちゃったから」とあきらめず、相談していいのです。
「損害賠償」「弁償」「負担」といった言葉が、どんな場合にいくら請求されるのか具体的な説明なく入っている場合は特に慎重に。「専属」「掛け持ち禁止」の取り決めが、長い期間・広い範囲・高額な違約金とセットになっていないかも確認しましょう。「写真・動画の使用」に関する同意は、どんな目的で、どこに、いつまで使われるのかを確認してください。「連帯保証人」「身元保証人」を求める欄は、保証人になる方にも十分説明が必要です。
自分を守るためにできること
- 契約書・誓約書は必ず1部もらうか、写真で記録しておく
- その場で読み切れないときは「家で確認します」と伝えてよい
- 同意できない項目には、無理にサインしない
- やりとりや約束はメッセージなど形に残るもので残しておく
もし辞めたいと思ったとき、「違約金を払え」「損害賠償を請求する」と言われることがあります。でも、働くことを強制されたり、退職を一方的に禁じられたりすることは、法律の一般的な考え方に反します。脅しのような言葉を言われても、それがすぐに法的な義務になるわけではありません。すでにサインしてしまった後でも、内容が法律の趣旨に反する部分については、相談することで状況が変わる可能性があります。
困ったときの相談先
ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。無料で相談できる窓口があります。
- 労働基準監督署:賃金の未払い、不当な天引きや罰金など、働くうえでのトラブルを相談できます
- 法テラス(日本司法支援センター):収入などの条件に応じて、無料の法律相談や弁護士費用の立替を案内してもらえます
- 警察相談専用ダイヤル #9110:脅しや身の危険を感じるなど、緊急ではないけれど心配なことを相談できます
- 各自治体の女性相談窓口:お住まいの市区町村や都道府県が設けている、女性が安心して話せる相談窓口です
契約書や誓約書の写真、給与明細、やりとりのスクリーンショットやメモなどを用意しておくと話がスムーズです。相談の内容は秘密として扱われ、名前を出さずに話せる窓口も多くあります。あなたが安心して働けること、困ったときに助けを求められること——それはあなたの当然の権利です。